講演1『 脳疾患を知り、診て、治療につなげる放射性医薬品 』
私たちの脳は頭蓋骨に覆われており、体の外から直接観察することが難しい臓器です。そのため、アルツハイマー病や精神疾患など様々な脳疾患において、脳内で何が起きているかを正確に把握することは容易ではなく、その発症メカニズムには未だ解明されていない部分が残されています。PET(陽電子放出断層撮像法)やSPECT(単一光子放射断層撮像法)は、生体透過性が高い放射線を利用して体内の情報を画像化する技術であり、脳疾患に関わる分子を体外から可視化できます。そのためには、脳内の標的分子に結合する放射性医薬品と呼ばれる薬が必要となります。

近年、アルツハイマー病では、その原因の一つと考えられているアミロイドβを標的とした新しい治療薬が実用化され注目を集めています。この治療薬の開発では、病態の解明や薬効の評価に加え、患者さんを適切に診断するためにも、放射性医薬品を用いた画像診断が大きな貢献を果たしています。また、アルツハイマー病以外にも多くの脳疾患に関連するさまざまな物質を標的とする放射性医薬品の開発研究が世界中で進められています。

本講演では、放射性医薬品がどのような脳疾患を対象として、病気を知り、診て、治療につなげるために貢献しているかを紹介するとともに、放射性医薬品をデザインするにあたっての工夫や、医療現場で実用化されるまでに、どのようなプロセスを経るのかについてお話しします。

渡邊 裕之 准教授 / 福井大学 高エネルギー医学研究センター

講演者略歴

渡邊 裕之(わたなべ ひろゆき)

学歴
2010年 長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 博士前期課程 修了
2013年 京都大学 大学院薬学研究科 博士後期課程 修了 博士(薬学)

職歴
2011年〜2013年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2013年〜2015年 京都大学 大学院薬学研究科 特定助教
2015年〜2016年 京都大学 ウイルス研究所 特定助教
2016年〜2018年 京都大学 大学院薬学研究科 助教
2018年〜現在 京都大学 大学院薬学研究科 講師
2025年〜現在 福井大学 高エネルギー医学研究センター 准教授

講演2『 放射線の薬がひらく新しいがん医療 』
私たちは、薬が体の中でどこへ行き、どの細胞に集まり、どのくらい残り、どのように排泄されるのかを直接見ることはできません。しかし、薬に放射性同位元素(RI)という放射線を出す原子をタグとして取り付けると、体の中での薬の動きをPETやSPECTという機械を使って体の外から画像として調べることができるようになります。このような薬は放射性医薬品と呼ばれ、病気を見つけるための診断や、近年では治療にも利用されるようになっています。

がん医療で大切なのは、がんを正確に見つけること、正常な細胞への影響をできるだけ少なくして治療することです。そのためには、がん細胞に多く見られる分子や、がん細胞がよく利用する仕組みを標的として使う必要があります。私たちはこれまで、がんの悪性度に関係するさまざまなタンパク質(受容体、膜型酵素、分泌型酵素、輸送体など)を標的にして、診断用の放射性医薬品の開発に取り組んできました。また、薬をがん細胞やがん組織により長く留める工夫が、治療効果の向上につながる可能性についても検討してきました。

本講演では、その中でも特に、がん細胞が栄養を取り込むために使うLAT1を標的とした例を紹介します。LAT1を標的とする薬剤は、がんの診断と治療の両面にアプローチすることを可能とします。LAT1はホウ素を含む薬をがんに届ける標的としても利用できるので、ホウ素をがん細胞に送り届けた後で中性子を体の外から当て、生じる放射線の力によりがん細胞を中から破壊するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)へも利用できます。このように放射線と薬のコンビネーションは「診る」と「治す」を一体化する新しいがん医療の形として期待されています。

本講演では放射線の薬がどのようにがんを見つけ治療へつながっていくのかを、易しく紹介したいと思います。

天滿 敬 教授 / 京都大学 複合原子力科学研究所

講演者略歴

天滿 敬(てんま たかし)

学歴
2000年3月 京都大学薬学部薬科学科 卒業
2002年3月 京都大学大学院薬学研究科 修士課程 修了
2004年1月 京都大学大学院薬学研究科 博士後期課程 中途退学

職歴
2004年1月 京都大学大学院薬学研究科 助手
2007年4月 同 助教
2013年5月 トゥルク大学トゥルクPETセンター 客員研究員(同年9月まで)
2014年4月 国立循環器病研究センター研究所 画像診断医学部 室長
2014年4月 京都大学大学院薬学研究科 連携准教授(兼任)
2017年4月 大阪薬科大学 教授
2021年4月 大阪医科薬科大学薬学部 教授(大学統合による)
2025年4月 京都大学複合原子力科学研究所 教授
2025年4月 大阪医科薬科大学薬学部 教授(クロスアポイント)
現在に至る