1.概要
原子炉炉心のガンマ線による対生成反応で生じる陽電子をビームとして引き出し、陽電子消滅分光法による材料分析に使用することを目的とした装置である(図1)。炉心近傍で生成した陽電子を熱エネルギーまで減速した後、10 eV程度のエネルギーでビームラインに引き出し、磁場を用いて試料位置まで約10 m輸送する(図2)。陽電子は電子と再結合して0.511 MeVの2本のガンマ線を放出して消滅するが、ガンマ線の放出時間やエネルギー分散から陽電子消滅寿命やドップラー広がりが測定できる。原子空孔やボイドなどの材料中の原子レベルの空隙に陽電子が捕捉されると陽電子の寿命が長くなるとともにドップラー広がりに変化が生じることが知られており、これらの原理を用いて材料中の空隙に関する情報を得ることが可能である。


2.特性
本ビームラインには図3に示すように輝度増強装置およびビームパルス化装置が備えられている。陽電子生成部で生成した初期ビームは30mmφ程度のビーム径であるが、輝度増強装置を用いることでビーム径5mmφ程度の低速陽電子ビームが得られる。また、原子炉を利用して生成する低速陽電子ビームは連続ビームであるが、ビームパルス化装置を用いて陽電子の試料への入射時刻を制御することにより、陽電子消滅寿命の計測を可能にしている。試料チェンバーには陽電子消滅ガンマ線検出器として1組のBaF2シンチレータ・光電子増倍管と2組のGe半導体検出器が設置できる構造となっている。これらをそれぞれ単独で、もしくは組み合わせて使用することで、陽電子消滅寿命(PALS)・陽電子消滅ガンマ線ドップラー広がり(DB)、陽電子消滅ガンマ線同時計数ドップラー広がり(CDB)、陽電子消滅時間-運動量相関(AMOC)の測定が可能である。原子炉1 MW運転時の陽電子ビーム強度は現在のところ輝度増強前で1×106 e+/s、輝度増強後で3×106 e+/s、輝度増強装置およびパルス化装置駆動時は3×105 e+/s程度である。陽電子の試料への入射エネルギーは最大30keVまで可変であり、試料の比重にもよるが試料表面から数ミクロンまでの領域の空孔型欠陥に関する情報の深さプロファイルを得ることができる。

3.条件
・ 試料サイズは15mm角程度を要する。
・ 現時点では試料の加熱・冷却機構は装備されておらず、測定温度は室温のみである。
・ 典型的な測定所要時間は以下の通りである。
・陽電子寿命測定 : 陽電子入射エネルギー1点につき0.5時間程度
・ドップラー広がり測定: 陽電子入射エネルギー50点程度のエネルギースキャン測定で3時間程度
4.操作者
本装置を使用する実験者は、予め実験内容について装置担当者と打ち合わせを行い、装置担当者が実施する装置の取扱いに関する教育訓練を受講する。
5.取扱方法
本装置の取り扱いは基本的に装置担当者が行う。ただし測定試料の交換作業については、装置担当者立ち会いの下で実験者自身が行えることとする。
6.異常時の処置
真空異常発生時には真空計が異常を検知し真空バルブが自動的に閉じられる。真空異常を含め異常発生時には陽電子加速用高圧電源を停止する。その後、装置担当者に連絡し処置を依頼する。
7.設置場所
原子炉棟炉室(B-1実験孔)
8.提出書類
実験・出張計画書、KUR実験記録、管理区域立入願、常時(臨時)立入者証交付願
照射試料をRIとして登録する場合:放射性同位元素取扱届(非密封)
9.装置担当者
木野村淳 kinomura.atsushi.3s*kyoto-u.ac.jp
薮内 敦 yabuuchi.atsushi.3u*kyoto-u.ac.jp
徐 虬 xu.qiu.8z*kyoto-u.ac.jp (*→@)
10.その他
本装置の利用は、所員との共同研究が望ましい。
